大判例

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最高裁判所第一小法廷 平成4年(行ツ)12号 判決 1992年7月16日

石川県能美郡寺井町字吉光ト七八番地

上告人

タケダ機械株式会社

右代表者代表取締役

竹田清一

右訴訟代理人弁護士

岩﨑精孝

同弁理士

磯野道造

渡辺裕一

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被上告人

特許庁長官 麻生渡

神奈川県伊勢原市石田二〇〇番地

右補助参加人

株式会社アマダ

右代表者代表取締役

天田満明

右当事者間の東京高等裁判所平成元年(行ケ)第三一号審決取消請求事件について、同裁判所が平成三年九月三〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人岩﨑精孝、同磯野道造、同渡辺裕一の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断及び措置は、原判決挙示の証拠関係及び記録に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の裁量に属する審理上の措置の不当をいうものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三好達 裁判官 大堀誠一 裁判官 橋元四郎平 裁判官 味村治 裁判官 小野幹雄)

(平成四年(行ツ)第一二号 上告人 タケダ機械株式会社)

上告代理人岩﨑精孝、同磯野道造、同渡辺裕一の上告理由

第一 原判決には、次のとおり、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違背がある。

一 認定判断の誤り第一点について

1 原判決は、上告人が審決取消の理由として主張している「本件審決は、第二引用例記載のものと本願考案及び第一引用例記載のものとを同質の機械と誤認している」とする点について、次のとおりの理由で、本件審決の認定には誤りがない旨認定している。

2 原判決は、まず丙第一〇号証により、プレス加工の類型の内、分離には、剪断による切断、分断(パーチング)、打ち抜き(プランキング)、穴明け(パンチング、ピヤシング)、切込み(ノッチング)、スリッティング、ふち取り(トリミング)、ふち仕上げ(シェービング)、ブローチ削り等の作業分類があること、を認定し、更にこの内「打ち抜き」は板状の材料から必要な形状の製品を切り取る作業であり、「穴明け」は板状の材料に所要の穴を明ける作業であり、いずれもその切断輪郭は閉曲線である旨認定している。

そのうえで、原判決は、本願明細書には「打ち抜き」という用語が用いられているが、本願考案は板状の材料から必要な形状の製品を切り取る作業を行うのではないから、本願考案のプレス機構の行う作業は、丙第一〇号証の類型にあてはめるならば、穴明け及び切込みであるものと認められるものとしている。

更に、原判決は、丙第一〇号証の分類の「穴明け」は、板状の材料に所要の穴を明ける作業であり、その切断輪郭は閉曲線であることは前記のとおりであり、また、丙第一〇号証の分類の「打ち抜き」及び「穴明け」を合わせて「打ち抜き」とする用法をも考慮すれば、本願明細書の「鈑金等加工材を打ち抜ける」、「加工材の央部を打ち抜く」、「央部打ち抜き」等の用語は、正しく丙第一〇号証の「穴明け」に相当する作業を含むものと認められると結論づけている。

3 原判決は、右のとおり、丙第一〇号証による用語法から本願明細書の「打ち抜き」という用語が「穴明け」に相当する作業をも含むと断定しているが、これは次のとおりの理由により誤っている。

本願考案は、本件審決も認定しているとおり、第一引用例記載のものと同じく本体背面で加工材の辺を凹形に切断する機械であることは、本願考案及び第一引用例がともにダブルヘッドコーナーシャーマシンであることから明らかである。

原判決は、本願明細書には、本願考案がダブルヘッドコーナーシャーマシンである旨の記載がない点を指摘しているが、本願考案は、本体背面における上刃と下刃が加工材の辺以外の板面を切断するための具体的構成が実施例として本願明細書に全く開示されていないのであるから、本願考案がダブルヘッドコーナーシャーマシンであることは明らかである。逆に言えば、本願考案の明細書及び図面のどこにも加工材の板面を穴明けする構造は記載されていないのである。従って、本願考案は、ダブルヘッドコーナーシャーマシンとして本体正面の切断手段で加工材の隅部をV型に切断し、本体背面の上刃と下刃のユニットを使って加工材の辺を凹形に切断することのみを行う機械であり、「穴明け」に相当する作業をも行うものではない。

原判決は、本願考案の実用新案登録請求の範囲を解釈するにあたって、本願考案がダブルヘッドコーナーシャーマシンであることを前提としていないため、前記のとおりの誤った認定をしているのである。

この点について、原審において、被上告人(被告)は、本願考案がダブルヘッドコーナーシャーマシンであり、この種の機械は本体の正面側で被加工材の端面をV形に切断し、背面側で被加工材の辺面央部を凹形に切断する機械であることを、本願考案の出願当時、既に当業界において定着していた技術であることを認めている。

従って、本願考案の実用新案登録請求の範囲を解釈するにあたっては、本願考案がダブルヘッドコーナーシャーマシンであることを前提とすべきであり、従って、本願考案は本体の背面で被加工材の辺面央部を凹形に切断する機械であり、「穴明け」に相当する作業を行うことの出来るものではない。

原判決は右の点を看過するものである。

4 このように本願考案は、加工材の辺部の凹形切断のみを行う機械であり、第二引用例の如き「穴明け」を行う機械とは同質の機械ではない。

この点について、原判決は、第一引用例記載の背面部のものと、第二引用例記載のものは、具体的な機械の種類、構造において相違するけれども、両者はいずれもプレス機構によって上刃を下刃に向けて下降させ、上刃と下刃によって加工材を剪断する剪断装置であるという点で同一の技術分野に属するのであり、機械の本質的機能に差異はなく、プレスによる剪断装置として、その軌を一にしているものと認定している。

しかし、これは次のとおり誤りである。

第二引用例記載のものは、穴明け専用機であり、加工材の面の中央部分を円形に打ち抜くことを目的としているものである。逆に言えば、第二引用例の技術をもって加工材の辺部を凹型に切断することができるという技術は開示されていないのである。従って、第二引用例によれば、パンチの全体で加工材を加工するものであるから、単に垂直荷重を加えることにより目的が達成される。これに対し、第一引用例記載のもの及び本願考案はいずれも加工材の辺を凹形に切断する機械であるから、加工材の辺からはみ出して、加工材に当たらない刃の部分があるため、垂直荷重のほか、切断にあたって切断すべき加工材の存在しない辺面部方向に受ける偏荷重に耐え得る構造の刃を備えていなくてはならない。

従って、第二引用例に記載された「パンチ」、「ダイ」と本願考案の「上刃」、「下刃」とはその構造が全く異なり、加工する仕事も異なるのであるから同質の機械ということは出来ず、プレスによる剪断装置として、その軌を一にすると認定することも誤りである。

5 特許庁がなした本件審決書によると、本願考案のコーナーシャーマシンと、第一引用例記載の考案(ダブルヘッドコーナーシャーシン)について、「本願考案(前者)と第一引用例に記載されたもの(後者)とを対比すると、後者の「コーナー用カッター、エッジノッチ用カッター」、「ワークヘッド」、「突出部」、「下型カッター」は、それぞれ前者の「上刃」、「ヘッド」、「ラム」、「下刃」に相当し、また、後者のテーブルで支えられた下型カッターとワークヘッドに設けられたエッジノッチ用カッターとはワークヘッドの駆動により加工材をプレス作業により加工するものであるから、これらは前者のプレス機構に相当すると認められるため、両者は、コーナーシャーマシンの上刃を取付けてあるヘッドの背面にラムを突設すると共に、該コーナーシャーマシンの本体背面にテーブルを取付け、その部分に着脱可能な上刃と下刃とを有するプレス機構を付設したコーナーシャーマシンである点で一致し」(審決書三丁十一行乃至四丁大行)ていると認定しており、本願考案のコーナーシャーマシンと第一引用例のコーナーシャーマシンは、共にダブルヘッドコーナーシャーマシンの構造であることを認定したのである。上告人は特許庁の右認定を争ったわけではなく、当事者間において争いのなかった事項である。

ところで、ダブルヘッドコーナーシャーマシンとは、本体の正面側の切断手段により加工材のコーナー(隅部)を切断すると共に、本体背面の切断手段によって加工材のエッジ(辺部)を切断するものとして、本願出願当時公知公用であり、これが定着していたことについても原審において当事者間に争いがなかった事項である(原審被告準備書面〔第三回〕四丁表面一行乃至同三行)。この点、特許庁において右の如く認定されたということは本願明細書及び図面の記載、即ち表現がダブルヘッドコーナーシャーマシンを説明したものとしてまさしく相当であったことを裏付けたものである。してみると、原判決において、本願考案は上刃と下刃からなるユニットを取り換えることによって、加工材の板面を閉曲線の穴明けをも行うことができると認定したことは、特許庁における審決書の認定範囲を超えた認定であり、審決の認定範囲を逸脱したものとして明らかに違法である。

しかも、本願明細書及び図面には、ダブルヘッドコーナーシャーマシンの構造のみが記載されており、穴明け(パンチング)の構造については全く思いを致していなかったのであるから、原判決は、審決書の認定範囲を超えて判断した上、誤った結論を下したものである。

本願考案は、この上告理由書に添付した図面(1)に示す如く本体正面の切断手段により、加工材(A)をして、コーナー(A')を切断し、本体の背面切断手段により加工材(A)のエッジ(A")(辺部)を切り込む(打ち抜く)構造にほかならない。

一方、仮に、第一引用例に第二引用例を転用することができたとしても、その構造はこの上告理由書に添付した図面(2)に示す如く、コーナーシャーマシンの正面切断手段により、加工材(A)をして本体正面の切断手段でコーナー(A')を切断し、背面切断手段で穴明け(A")を行う構造である。このことから、第二引用例は穴(孔)明け専用機であることが判る。してみると、引用例の構造によっては加工材のエッジ(辺部)を凹型に切り込むことができない。

右記により明らかになった如く、本願考案と引用例の構造とは機械の種類及び構造を全く異にしているのである。従って、本願考案の上刃と下刃からなるユニットに相当する構造が、第二引用例に記載されていたとする認定の上に立って下した原判決は違法であることは、火を見るより明らかである。

二 認定判断の誤り第二点について

1 原判決は、本願考案の「刃台取付溝内に上刃と下刃をユニットとして着脱可能に設置する」という構成を想到するには格別な創意を要するにも拘わらず、格別な創意を要するとは認められないものと判断し、右の点は審決取消理由とはならないものとしている。しかし、この点は、次のとおり原判決の判断は誤っている。

2 原判決は、前提として、第二引用例に「テーブルの刃台取付溝内で、上刃と下刃をユニットとして着脱可能に設置する」ということが記載されていること、第二引用例記載のものが本願考案のプレス機構と同質の機械であることを認定し、そのうえで、第二引用例に記載されたテーブルの刃台取付溝内で上刃と下刃とをユニットとして着脱可能に設置するという技術思想を、第一引用例記載の背面部のものに転用することに格別の創意を要するとは認められないと結論づけている。

原判決が第二引用例記載のものと、本願考案が同質の機械であるとの前提をとっていることが誤りであることは、前記のとおりである。

また、第二引用例と本願考案とは同質の機械ということは出来ないのであるから、第二引用例に「テーブルの刃台取付溝内で上刃と下刃をユニットとして着脱可能に設置する」ということが記載されているということも出来ないのであり、原判決が前提としていることは、いずれも認められるものではない。

3 仮りに、第一引用例記載のものに第二引用例記載のものを転用したとしても、第二引用例記載のパンチ、ダイは、偏荷重を考慮していない構造であるので、加工材の辺部を凹形に切断する機械にはなり得ないのであり、そこに格別の創意が必要となるのであり、少なくとも次のような非常に解決困難な問題を当業者としては克服しなければならないのである。

第一に、垂直荷重とともに水平荷重にも耐え得る技術的手段を講ずること。

第二に、第二引用例記載の上腕部材の丸孔の制約を受けないような上刃とその取付技術を工夫すること。

第三に、第二引用例記載のラム装置3の軸芯を叩く技術によると、ラム装置を上下させるためシリンダー機構をパンチングプレスの懐ろ部1の上方部内に設けられなければならないが、本願考案のようにラム3内にシリンダー機構を使用しないで加工できる技術を工夫すること。

第四に、第二引用例記載の上腕部材の丸孔にパンチ装置を貫通保持させる技術によると、丸棒状パンチのガイド機構及びパンチの復帰用バネ等をパンチの近傍に施す必要があるので、パンチの取付部の機構が複雑となり、且つ大きくなることから機械全体が大型化、高価格化を招いて、ダブルヘッドコーナーシャーマシンとしては実用に供し得なくなるので、小型で安価な機械にするための工夫をすること。

第五に、第二引用例記載のラム装置の軸芯でパンチ装置の軸芯を叩く技術を第一引用例の装置に転用すると、コの字形で長い寸法のパンチングセットを使うことになるから、第一引用例記載のワークヘッドの前後寸法を長く用いなければならない。しかし、ダブルヘッドコーナーシャーマシンは正面と背面で加工材の隅と辺を切断する機械であるから、ラムの大きさを小さくし、テーブル面を広く用いることが望まれているから、ラムの前後寸法を短くしてラムの下面のどこの面においても上刃を叩ける技術にすること。

第六に、第二引用例記載の上腕部材に取り付けてあるパンチ装置によると、加工材に穴明けしたのち、加工材を丸棒状パンチから離脱させる方法は、第二引用例図面第2図から理解できるように、穴明け後、パンチの下端部が上腕部材の下面より丸孔の内部に上動するときに、加工材が上腕部材の下面に当接することによってパンチから離脱する技術になっているが、本願考案のように上刃を下刃台の下面(外部)に取付ける技術を採用するとすれば、パンチから加工材を抜くための手段を別に講ずること。

4 更に、第一引用例のように、元来ダブルヘッドコーナーシャーマシンは、上刃がエッジノッチ用カッターとしてワークヘッドに取り付けられ、下刃は下型カッターとしてテーブルに取り付けられているため、上刃と下刃が切断に当たって正しく噛み合うよう上刃と下刃のクリアランスの調整が必要である。これを行うには相当な経験と技術を要し、熟練した技術者の勘と手腕に頼らざるを得ないばかりか、上刃がワークヘッドに組み付けられ下刃がテーブルに設けられているため、調整作業を行うスペースが狭くて、しかも手作業を行う方向が上刃と下刃では異なることから、調整作業がしにくいという作業環境にある。従って、その作業を完了するには厄介な手段と相当な時間を要するのが現状であった。

5 そこで、右欠陥を克服し作業の効率化を図るためには、クリアランスの調整を不要にする方策を考え出すことが必要であり、この点が解決の極めて困難な点であった。

上告人は、この課題を解決すべく研究を重ね、多くの技術的困難を克服して、上刃と下刃を刃台取付溝内にユニットとして着脱可能に設置するという技術を考案するとともに、これがコーナーシャーマシンとして機能するために上刃と下刃をガイドピンを介してユニットとして形成する構成を採用したのである。

このように、本願考案は格別の創意を必要としたものであり、この点を看過した原判決の前記認定は誤りである。

三 認定の誤り第三点について

1 原判決は、本願考案が上刃と下刃がユニットとして一体的に組み合わされ、刃台取付溝内において、着脱自在に取り付けられていることから、

第一に、加工材の切断方法に応じた刃物の取り換え作業が、ユニットを取り出すことにより簡単に作業でき、

第二に、上刃と下刃がユニットとして形成されているため、前記のとおり、上刃と下刃のクリアランスの調整が全く不要となり、作業能率が飛躍的に向上され、

第三に、上刃と下刃のユニットはテーブルより分離されているので、ユニット自体が軽量化され手作業でも付け替えが可能となるという効果があることは認定しているが、これらはいずれも第二引用例に記載されているものを第一引用例に記載されているものに適用した結果であり、当然予測し得る効果であるとし、従って、本願考案と第一引用例記載のものとの相違点に係る本願考案の構成を採用したことによる効果も、当業者が普通に予測し得る効果を越えるものではない旨、結論付けている。

2 しかし、第二引用例と本願考案及び第一引用例とは全く異質の機械であることは前記のとおりであり、第二引用例記載のものによる効果と本願考案のそれとは全く異なるものである。原判決は、第二引用例と本願考案及び第一引用例を同質の機械であるとの誤った認定をした結果、その効果についても、誤った結論を導き出していると言わざるを得ない。

四 以上のとおり、原判決は実用新案法第三条第二項を誤って解釈適用しており、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違背がある。

第二 原判決には、次のとおり理由不備の違法がある。

一 上告人は、その主張を立証するため、平成元年一一月二二日、本願考案における「上刃と下刃のユニット」部分の検証を申請し、更に、本願考案を開発した上告人の取締役製造部長兼技術開発部長池田千尋を証人として申請した。

二 ところが、原審では、右申請はいずれも採用されず、却下され、判決が言渡されてしまった。

三 上告人は、右検証及び池田千尋証人の証言により、上告人の主張事実が立証できたにもかかわらず、右証拠調べを行わなかった原判決には審理不尽の違法があり、そのため民事訴訟法第三九五条一項六号に定める理由不備の違法がある。

四 よって、原判決は直ちに破棄され、原審に差し戻されるべきである。

以上

図面(1)

<省略>

図面(2)

<省略>

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